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ロックマンシリーズ女性向け二次創作
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【それでも貴方は兄である】
メタルとエアー
エアー稼動後。自我が芽生えたばかりの兄と、しっかり者の少年の自我を持つの弟。
生まれたてのエアーの一人称は私。のちほど俺。




そのロボットが正常に起動したことを、ドクターワイリーは大層喜んだ。
隣に控える赤いロボットにお前の弟だと伝えると、それはただ静かにハイ、と頷く。その姿はワイリーはやれやれと溜め息を吐き笑った。

「お前さんは分かっておらんのだろうな」
「弟、というものの概念は分かります」
「まあ、それだけ分かっていればなんとかなるじゃろう」

呆れた口調ながらも、赤いロボットを見る彼の眼はひどく優しい。その眼差しを向けられ、赤いロボットはやはり静かにそこに佇んでいる。感情などまるで無いような表情と態度。実際、そのロボットにはほとんど感情というものは無かった。
小さな芽を出したばかりの自我は、本人の気付かないところで根を伸ばしているはずだ。この機体の誕生により、きっとそれは大きく成長するだろう。ワイリーはそれを願い、青いロボットの目覚めを待った。

周囲に鳴り響いていた起動音がひとつ、またひとつ集約され小さくなっていく。代わりに僅かな駆動音がその機体のあちらこちらから漏れ聞こえてきた。静かであるが、確かなそれは、まさしく命の息吹だ。
視覚センサーに赤い光が灯る。それは自分の存在を確かめるように、何度か瞬いた。
しばらくして、ゆっくりと青いロボットはその巨体を起こし、自らの創造主と対面を果たしたのだった。

「気分はどうじゃ」
「貴方が私の創造主、ワイリーですか」
「うむ、そうじゃよ。ワシがお前を作った。ドクターワイリーナンバーズ010、エアーマン、お前さんをな。ところで何かおかしいところはないか?」
「エアーマン・・・それは私の名前でしょうか」
「そうじゃ、そうじゃ。で、システムに異常は無いかの?」

なにかおかしい。ワイリーは先ほどから妙にかみ合わない会話に首をかしげた。人格、及び自我はしっかり者の子供を想定してプログラムしたはずだ。
メタルマンといい、このエアーマンといい、どうにも予想とずれてしまうようだ。ワイリーは子を持った事は無いが、赤子と親を見る事はあった。そしてきっと世の親というものはこういう気分になるのだろうな、と思ったのだった。悪いものではない。
システム等に異常が無いか、どこか見えない部分でエラーが出ていないか、本人に聞きたかったが仕方が無いと諦める。後で自分が見てやれば済むことだ。それよりも起動したてて、その独特の巨体に似合わずそわそわとして落ち着きのないエアーマンの様子が微笑ましかった。こういうのを親馬鹿というのだろう。

「その名前、気に入ってくれたか」
「ええ、ドクターワイリー。私の能力に合った、とても良い名だと思われます」
「そうかそうか。その姿はどうじゃ」
「貴方が与えてくれたのです。とても誇らしい」
「ドクター」

そうやって二人で会話をしていると、静かに佇んでいた赤いロボットが口を開いた。
おお、そうだ、とワイリーはその赤いロボットをエアーマンに紹介した。

「これはお前の兄、ナンバー009、メタルマンじゃ。メタル、ほれ、挨拶をしてやれ」

エアーマンはメタルマンを見上げた。データで知っていた自分の兄。ドクターワイリーの処女作。見るとなるほど、冷静沈着で無駄の無い様に自分より小さな機体であっても、とても頼もしく感じられた。
初めて世界に触れ、どこか浮ついていた自分をエアーマンは恥じた。そして身を引き締める。

「メタルマン。貴方の後続機として生まれた事を光栄に思う。まだまだ未熟な私だが、よろしく頼まれてくれるとありがたい」

そうして差し出された手をメタルマンはじっと見つめ、口を開いた。

「ドクターワイリー。ナンバー010に対する疑問が解決しておりません」
「なんじゃ」
「私に対する疑問?」

メタルマンの言葉にワイリーとエアーマンは揃って首をかしげた。差し出した手は未だ中空に浮いたままだ。

「はい。システム等にエラーが無いか、その質問にナンバー010は答えていません」

まずはそれをはっきさせるべきです。そう言って再び黙ってしまったメタルマンに、ワイリーとエアーマンは顔を見合わせた。そして慌ててエアーマンは異常が無いことを伝えた。

「いや、もうそれは・・・まあ、良いかのう」
「申し訳ありませんでした、ドクター」
「気にするな、エアー」
「・・・ドクター」

「ナンバー010、エアーマン。私はナンバー009、メタルマンだ」

どうやら落ち込んだ様子のエアーマンを慰めるように、ワイリーが気にすることではない、とその機体を優しく叩いた。
それに感銘を受けるエアーマン、鷹揚と頷くワイリー、そこに流れる感動的な空気に水を差すようにメタルマンが再び口を開いた。
忘れられたまま中空に浮いていた手を握り締め、無表情で君のお兄ちゃんだ、よろしく、と告げるメタルマンに、エアーマンは違和感と、漠然とした不安を感じた。ロボットのくせにこのはっきりとしない気持ちはなんなのだろう。
握った手を何時までも離そうとしない兄を見、そしてワイリーを見る。

「実はな、メタルはお前さんより幼い。まあ、お前さんならなんとかやっていけるはずじゃ」

兄弟水入らず、メタルマンは任せたからな、と言い残し、ワイリーはラボを出て行った。
いよいよ手を両手で握り出し、相変わらずの無表情でお兄ちゃん、と呟くメタルマンを見て、エアーマンはワイリーが逃げたのだと悟った。
どうやら兄は、兄でありながら、別のものでもあるようだ。
母親が亡くなって生まれたばかりの弟を持った兄の気持ちとはこんなものなのだろうか。自分は弟のはずなのに。
複雑な気持ちでエアーマンはメタルマンの名を呼んでみた。

「メタル」
「お兄ちゃん」
「メタル」
「お兄ちゃん」
「・・・メタル兄」
「メタルお兄ちゃん」

そのやり取りはエアーマンは根負けし、お兄ちゃんと呼ぶまで続いた。

弟は兄をお兄ちゃんと呼ぶものである。その認識を覆すのはなかなか骨の折れる仕事だったが、エアーマンは次の日にはやり遂げた。全ては自分の為であった。
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